元社員が語る! 米Appleで必要になる英語レベルとは

よしだみすず
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イノベーティブな企業として人気が高いApple社。わが子が志望したらどんなレベルの英語力が必要になる? 米Apple社でシニアマネージャーを務めた日本人エンジニア・松井博氏のお話をうかがいました。

元社員が語る! 米Appleで必要になる英語レベルとは

 

 

違いは草野球とメジャーリーグ。毎日がサバイバルだった

 

アメリカで働く、といっても一概に言えないかもしれませんが、松井さんは、Apple Japanを経て、2002年に米Appleへ移籍されましたよね。同じ企業ではありますし、日本で認められて移籍したぐらいであれば、そんなに状況は変わらない気もするのですがいかがでしたか?

 

「日本からシリコンバレーに行ったとき、草野球から一気にメジャーリーグに行っちゃったような感じがしましたよ。だからもう、本当に毎日がハードでした。

 

米Appleで管理職になっている人というのは、3、4カ国語話せるのがザラで、その上でCDを出すミュージシャンだった、なんて多才な人間だらけなんですよ! 

 

もちろん、コードもバリバリかけて最終学歴はMBAですが、なにか? みたいな。誰もが知っている大学を出ているような人ばかりの世界でしたから。そして、人材はいくらでもいるから、使えない奴はさっさと切ればいい、使われているほうも、もし働けなくなったらやめればいいや、という感じでしたね」

 

やはり才能が集まる会社なんですね。外から想像するに、社風なんかは自由そうですしわが子の就職先として考えてみると 働いている人の社内の雰囲気はよさそうなのですが、いかがでしたか?

 

「これが、ほんともう、とにかく社内政治が大変でした。僕は日本のメーカーで働いたこともあるんですが、日本なんかほんと目じゃないですよ。

 

向こうでは、社内政治の意味が、根回しとかではないんです。人の成功には目もくれず、一点でも失敗したところばかり突いて、自分が失敗した時は、すぐにブロックして私は知りません、と自分のテリトリーを守るというような、まさに『戦い』でした。

 

相手のココが悪い、と決めたら徹底的に裏を取って責めるんです。ストーリーを勝手に作り上げたほうの勝ちですから。でもそれはやった分だけ自分にもまた返ってくるわけで、相手を刺しては後ろから刺されての繰り返しでしたから。

 

僕は品質管理マネージャーという立場もあって、発売される前の製品についてのチェックだったり、発売された後のクレームに対して対応しなければならない立場でもあったので余計にそうだったのかもしれませんが、かなり厳しい立場でしたね。

 

カスタマーがジョブズに直にメールしたクレームが、そのまま引用されて『改善しろ!』なんて一言とともに突然社内に転送されてくるなんてこともあったので、本当にひやひやでした」

 

 

留学で学んだ英語はお遊びのようなもの。英語が本当に武器になった

 

もし子どもが「アメリカで働きたい!」と言ったら? 元Apple社員に聞いた、本当に必要な英語力とは

 

日本でも上司と戦うドラマがありましたが、それよりももっと「社内全部が敵ばかり」のような過酷さだったんですね。そうなるとコミュニケーションが必要になってくると思いますが、そもそも日本語でも難しいですよね。松井さんは、英語力や英語のコミュニケーション力には自信はあったのですか?

 

「僕は、大学で留学をしたのでもちろん英語をペラペラと話すことはできたけれど、いま思えばレベルが低かった。要は自分の教科がこなせればいい語学力だったんです。

 

別に話す内容が上手くないと自分の利益が損なわれるとか、部下が減らされると言う危機感はないわけです。英語で論文と言ってもそこまで緻密なものを書くわけではなかったですから。

 

また、社会に出てから日本のメーカーやApple Japanで英語を使っていた時のビジネス英語って、じつは簡単なんだと気付きました。『納期はいつ、何日までに何人のスタッフでやる』とか、言うこと、使う英語がたいてい決まっているんです。

だからApple Japan時代はレベル維持という感じでそんなに英語が上手くはなりませんでしたよ。

 

それがシリコンバレーに行ってみたら、毎日が社内政治、戦争、かけ引きですから。英語を武器にしないと生きていけないんです。微妙な言葉のニュアンスや言い回し、英語ならではの感覚や世界観が嫌というほど身に付きましたね。

 

いまはアメリカで生活しているんですが、政治討論といったものでもまったく日本語とほぼ同じに聞き分けられますし、英語と日本語のギャップはほとんど感じません。桁違いに上達したと思いますね」

 

アメリカの大学に進学し、Apple Japanでも英語が日常の生活だったにも関わらず、さらにレベルが上達されたということですね。一流の人々と渡り合うには、かなりの勉強が必要ですね。大学のときはちなみにどのような英語力だったんですか?

 

「英語のレベルを数字で表すと、大学の時でTOEICの点数は800点くらい、Apple Japanの頃の社内TOEICのテストでは、20分以上余って満点でした。その時点ではたぶん、日本で勉強した最高峰だったと思います。それでも渡米してもまったくまだ足りない、という感じだったんですよ(笑)。

 

つらかったけれどやり甲斐があったあの経験のおかげで、英語を武器にするところまで行けましたね。退社後は教育に関心がでてきて、そこでの英語力をつけるノウハウを人に教えたい、という新しい夢ができました。今はフィリピンのセブ島に語学学校を作るために奔走しています。」

 

 

中高時代は、アウトロー寸前。でも英語のインパクトが僕を変えた

 

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日本でも高い英語力を身に着けていて、アメリカでサバイバルをしてきた方、というと、もともと勉強も英語も得意な人気者の天才少年というイメージを持っているのですが、中高生時代はどんな子どもだったのですか?

 

「いえいえ、全然! ひと言で言うと、ヘンな奴でしたね。 みんなと一緒に座っているとか、なにかをやるということがすごく苦手で。もちろん勉強も全然できなかった。けっこう仲間外れとかもされたし、協調性ゼロだったので周りから浮いていましたよ。

 

ただ英語に関して言えば、母親が英文科の出身だったので、中学に入って英語の授業が始まると、『教科書を覚えればいい』と教えられていましたね。そうすればテストはできるから、と。

 

毎晩寝る前に暗記したかどうかを母がチェックするんです。できないと竹でバシッと叩くようなスパルタな親だったから、怖くて…(笑)。勉強はちゃんとはやりはしなかったんだけれど、英語の教科書だけはほぼ毎日読んでいました」

 

教科書の丸暗記! これは手軽にできる勉強法ですが、強制力がないとなかなかハードルが高いですね(笑)。そこから英語が堪能になったのでしょうか?

 

「いいえ。じつは中学の終わり頃にグレちゃったんです、僕。一番肝心な受験の年に親の言うことを聞かなくなり、かなり横道に逸れました。英語どころか他の教科も勉強をまったくしなくなってしまったんです。

 

でも、英語には興味がわくような出来事はあったんです。その頃僕はスイミングクラブに通っていて、そこのヘッドコーチが英語ペラペラだったんですよ。横須賀基地が近かったので、米軍の子どもも生徒で来ていたんですが、彼らと普通に英語で会話していたんです。

 

それがすっごいインパクトがあったんです。

 

頭は禿げて、お腹は出っ張っているおじさんコーチなのに、英語をしゃべる姿は『ウォー、かっこいい!!』と思って。

 

それからチームメイトの彼らと一緒になるときは、教科書の暗記で覚えた英語を駆使して2、3言ですが会話するようになって……。それが最初の英語体験かな。その時も、文章をまるごと覚えていたから、文章で会話ができたんですよ。いま考えてみると、母の教え方はよかったんだな、と思いますね」

 

中学生時代に、「かっこいい!」と思うようなインパクトはとても有益ですね。憧れは強い動機になりますし。そこからは教科書暗記英語を使って大学進学へまっしぐらですか?

 

「いえいえ、まだまだ落ちこぼれていきましたよ(笑)。進学した地元の高校でも問題ばかり起こすものだから、学校からは自主退学を勧められるほどになってしまって…。

 

親もあきれ果てて、『このままだとダメになる』と、交換留学の試験を受けるように言われました。ですがその時の試験でも、英語の教科書の丸暗記が活きましたね。そこに書かれていた問題はよくわからなかったんですけど、『これについて書きます』みたいにして勝手に知っている英語を使って。あと面接で『向こうの生徒にからかわれたらどうしますか?』みたいなこと聞かれたんで『ぶっとばします』なんて言っていたらそれが運よく受かったので(笑)、1年間オハイオ州に留学しました。

 

そして日本に帰ってからは『よし、英語だ!』と。そこからは自分で言うのもナンですが、本気で勉強し始めました。TOEFLを1年間で500点越えるようになるまで仕上げて、アメリカの大学に進学しましたね」

 

なるほど、そこから英語を使って働くということにつながっていったんですね。元々アクティブな性格でいらっしゃったのかもしれませんが、そういう子は目覚めると本当に早いんでしょうね。英語のみならず、子どもの強い学習動機を生むようなインパクトのある体験をさせることが、親としては重要なんだなと感じました。

 

最後に、英語を学んでいる子どもたちやその親御さんにアドバイスをお願いします。

 

「僕が思っているのは、『世の中ってじつはそんなに大したことない』ということなんですよ。だいたい自分と同じレベルくらいの人が作っている。

 

だから、『なんでこれってこうなの?』ってことがいっぱいあったりしませんか? それは大したことない人が作っているからなんです。たとえばそれを直そうと思ったら、直せることはいっぱいあると思うんです。

 

ただそこに気付くか、気付かないか。だけど、僕が言っても、やってもしょうがないんじゃないか…、と思ったらそこですべて止まっちゃうんですよね。

 

将来を描くことも、そしてもちろん英語も同じ。どんな子だって、いつから始めたって遅くないし、そんなに大変なことではないんですよ」

 

 

後編はこちら:

今すぐ変えよう。Apple元社員が教える英語の鍛え方

 

 

松井博(まつい・ひろし)氏

お話をうかがった方:
松井博(まつい・ひろし)氏

神奈川県出身。オハイオ・ウエズリアン大学を卒業後、沖電気工業、アップルジャパンを経て、2002年に米Apple社でiPodやMacなどのハードウエア製品の品質保証部門のマネージャーとして活躍。2009年同社を退職後は、著書『僕がアップルで学んだこと』、『企業が「帝国化」する』などの執筆活動の傍ら、米国での保育園事業や合気道教室、ウクレレ教室講師など、何足もの草鞋を履きこなすマルチなエンジニア。現在、自身の英語学習経験をもとに、セブ島に英語学校「Brighture English Academy」をローンチすべく奮闘中。

Brighture English Academy(Facebook)

 

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この記事の筆者について

よしだみすず

PROFILE

東京都出身。1児の母。ゴルフ専門誌、情報誌の編集を経て、出産を機にフリーライターに。大学時代に短期留学を経験するも、英語力より脂肪を身につけて帰国。国際社会の波に乗れなかったことを悔やむひとり。息子には同じ轍を踏ませまいと、英語教育について探求中。

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